2003年5月講習合宿

5月23日(金)
2001年にいらっしゃったL先生は素晴らしい先生だった。
なにがって?
そりゃ、太極拳に決まってるでしょうに!
いやいや、そればかりではない。
顔も声も髪型も胸板も太腿も(見たんかい!)・・・
とにかく全てにおいて否のうちどころがないのです!

そんな先生だから、どこでもモテモテなのでしょう。いやいや、引っ張りだこなのでしょう。
聞くところによれば、現在はナショナルチームを見ているそうで、土、日に体があくことは滅多に無いそうです。
そんなお忙しいL先生がラッキーにもいらっしゃることになったのにはいろいろと込み入ったいきさつがありました・・・
私にしたら、そのようないきさつはさておき、とにかくL先生に会えれば好いわけで。
2年間温めておいた念願がやっと叶った、って感じです!

2日間着るジャージとTシャツも念入りに選びました!
今回は「32式剣」を習うので、これまで使ったことのない新しい剣を持っていきます!
練習で一度もつけたことのない剣穂(剣につける飾りのこと)も持ちました!
しかも、2つも!悩んだ末にひとつに決まらなかったのです。
珍しく美容院にも行った!
準備万端!

もしもの時に見てもらえるように「孫式」も仕上げた!
32式剣も自主トレして復習しておいた!
抜かりはないぞよ!

よこしまな考えが頭の中を渦巻き、眠れなかったことは言うまでもない・・・
明日になればL先生に会える♪

伏兵がいるとも知らず無邪気に喜ぶtuziだった・・・



「涙」
5月24日(土)
午後12時
昨晩、よく眠れなかったけど、疲れはない。
だって、この日を2年間待ってたんだから!

講習は午後の1時開始なので、隣県ではあるがゆっくり家をでた。
会場は、宿泊施設に体育館が隣接している建物で、我々のように他県からの参加者にはありがたい施設である。

この合宿は、同じ団体の支部発足20周年記念の行事の一環だった。
受付をして、今回の講習の参加者名簿をいただいた。話しでは170名ほどと聞いていた。
講師の先生は、L先生のほかに団体のw代表先生、それに我が県の指導員が2人の計4名。
種目別に分かれて指導にあたることになっている。
でも、170名が4人で均等に分かれるはずもなく、L先生が担当される「32式剣」に当然集中することと思う。

名簿は申し込み順に記載されていて、私は我が県申込者のトップだった。
ところが、名簿に記載されていた私の名前は・・・
別人やんけ!
二文字とも違うんだよ・・・読み方も全く違うんだよ・・・
これはネタになるな、なんて考えながら着替えを済ませ、ロッカー室からひとり何気に出てきたところへ・・・

バッタリ!
L先生だ!

うわっ!

L先生もひとり、廊下は私とL先生二人だけの世界♪
私は驚きのあまり、とっさに中国語が口をついていた。
(中国語)「L老師!二度目にお目にかかります。2年前××でお目にかかってます。よろしくお願いします!」
L先生はにこやかに聞いててくれた。

ドキドキ・・・
こんなにタイミングよく会えるなんて運命かしら?
ひとり勝手にtuziは思っていた・・・
伏兵がいるとも知らず、名簿のミスプリのことなんかすっかりふっとんで
「(L先生、今回は床屋に行かなかったのね。髪がボーボーだわ・・・顔にもちょっとオヤジが入ってきたかも・・・)」
なんて、のんきに考えながら幸せに浸っていたのでした・・・。



午後12時30分
名簿に不吉な名前を発見。我が県からの参加者は10人ほどだった。
その中にひとりの若い女の名前が・・・その名はカノト。
彼女を・・・どう説明していいのやら・・・?
まず、若い!
そして、長身!
目がぱっちりで一見かわいい!
うーん、そして・・・誰にも真似できないほど積極的。
それが、天才的にタイミングばっちり!

どう逆立ちしても私には真似できない芸当。
だって私はタイミング外しっぱなしの女だから・・・(泣)

カノトはとにかく凄いんです!
シツコイという印象を相手に感じさせずに、近づくハンター。
カノトはとにかく凄いんです!
女の私の目から見て、それでメロメロに好印象を持つ男の心理が理解できない。
カノトはとにかく凄いんです!
何を話題に話しかけるのか知らないけど、とにかく会話を弾ませる天才。
しかも、相手に話させるのが巧い。いや、相手に話したいと思わせるのか・・・?

とにかくカノトがいる限り、私なんか「お呼びでない」・・・
そしてカノトはやって来た・・・私の2年間はこの時点で終わった・・・
カノトはそういう女なのだ・・・



午後12時45分
我が県のカサ先生もL先生の講習を受けにいらっしゃってた。
「お久しぶりです!」と声をかけたら開口一番、「tuziさん、L先生だから来たの?」だって。
バレバレやん!
「ハイ!」と元気よく答える私・・・
きっと、オチャラケで太極拳してると思われてるんだろうなあ・・・

L先生の指導の凄いところは、体に負担をかけずに太極拳をさせるところです。
2年前「総合42式」を受けた時、翌日の筋肉痛が股関節でした。
股関節が痛くなったのなんて初めてでしたし、きっと適切な指導だったからだと思いました。
私は決して、オチャラケで受けに来てるんじゃありません。
真面目に指導を受けたくて2年間待っていたんです。

ふと見れば、L先生は体育館の後方にひとり立っておりました。
私は渾身の勇気をふりしぼり、独学した‘孫式’を見て欲しいとお願いしようと近づいた。
(中国語)「L先生、お願いがあります・・・私・・・独学で孫式を勉強したんです
・・・時間がありましたら、見て欲しいのですが・・・」
L先生は、以外にも(中国語)「いいよ」と快く引き受けてくださった。
(中国語)「へっ?本当に?」
(中国語)「ああ、時間があったら。これからスケジュール聞くから、まだわからないけど。独学したの?」
(中国語)「はい。少しだけでも見てください、お願いします・・・」

孫式で質問は特にないのだった。
見るに値しないだろうけど、ほんの少しでも見て欲しかった。
L先生が見たら、きっといけないところが見えるはず。何か言って欲しい、と思った。
お願いはしたから、あとはL先生に任せた。

私は面倒くさい人間関係が苦手だ。
人との付き合いのことをいっているのではない。交流は大好きだから。
私がいう面倒くさい人間関係というのは例えば、言葉の裏を読んだり、お世辞言ったり、
根回ししたり、巧みな嘘を言ったり、裏をかいたり・・・皮肉を言ったり・・・
だから、そういうことばっかり考えて言葉を発する人との付き合いも下手だし、とっても疲れる。面倒くさい。
なぜ、率直に言わないで、ことさら小さい世界で言葉をこねくり回すのか理解できない。
だから、こんな時もカノトだったら、巧く別の言い方をするのだろうけど・・・



午後1時10分
L先生の準備体操が始まった。
L先生は日本語も達者になって、参加者を笑かしながら基本功を中心に準備体操を進めた。
日本語が堪能になった分、存在が遠くに感じた・・・

種目別に分かれての講習が始まった。ついに陣取り合戦の始まりだ!
私は端を狙った。
なぜなら、剣は隣の人に当たりそうになるのを気にしながらでは集中できないから。
私は左端2列目に立った。私の前には以前から知ってるモリヤさん(主催県の男性)
ベストポジションだよ!
私は満足していた。
横一列は15人くらいがダーッと並んで、縦4列位かな・・・てことは70人くらい。
カノトは前列中央!
ねっ!カノトはそういう女なのだ・・・



午後3時30分
3時の休憩をはさんで、4時30分までの練習。
L先生から個人的に指導の声がかかるのは珍しいことなのだろう。
私はそう思っているし、よほど見かねてのことなのだろうと思っている。
2年前「総合42式」を習った時、私には3ヶ所で指導の檄が飛んできた。
それが、かなり厳しい口調だったので、
「(L先生って教える時は厳しい人なんだ・・・)」と私は思い込んでいた。
その時の檄はこうだった・・・
ひとつ目は‘ラツセイセイ’での手の動き。
「大きく!!(怒)」
ふたつ目‘ドクリツタクショウ’の刺しだす手。
「もっと前!!(怒怒)」
三つ目‘ワンキュウシャコ’の足の位置。
微妙に違ったのを指摘され
「ここっ!!(怒怒怒)」
みじかっ!
私は恐怖のあまり返事をすることさえできなかった。
それ以来、‘ワンキュウシャコ’をする度にL先生の「ここっ!!」という声が聴こえるようになってしまった・・・
怖かったよー。
でも、みんなにそうだと思っていたのです・・・

そして今回、剣でも個人的指導が入った。
やっぱり怖い。
‘並歩平刺’で膝が曲がりすぎていた。刺す手が甘かった。
後ろからL先生の声が聞こえた。
「膝伸ばして!(怒)

ビクッ!

それじゃあ足から力が出ないでしょ!(怒怒)
もっと手も伸ばして!!(怒怒怒)」

「はい・・」
私はかろうじて蚊の泣くような小さな返事をする。進歩である。
L先生も日本語が達者になった分、お叱りの言葉も長くなっていた・・・


マイ・ダーリンは2年を経て更にパワーアップしていた・・・


絶妙のタイミング・・・


安定感!


のびのびと・・しかし伸びきらず・・


虚歩でそっとだし・・・



午後4時30分
本日の練習が終了した。
結局、この日は時間がなくてL先生は孫式をみてはくれなかった。
(中国語)「時間ないから、あした!」だってさ・・・
なんだか、その気もないのに口先だけの安請負で返事ばっかり調子いいって感じに思えてきた。

6時から夕食を兼ねて祝賀会である。
そこで、とことんカノトの恐怖を味わうtuziだった・・・



「泣」
5月24日(土)
午後6時00分
同じ団体の支部発足20周年記念の祝賀を兼ねての宴会。
各地方教室から多くの参加者がいらして、ちょっとしたお祭りである。
今回の主催県には以前も講習合宿でお邪魔したことがあったが、
おば様方が元気で明るくて、芸達者で、お国訛りの言葉がたくさん聞けて本当に楽しい。

祝賀だから、でるはでるはアトラクションの数々・・・
踊り(我々参加者までが輪になって踊る)それも2回も・・・
見てると恥ずかしいから、輪に入りたくないんだけど、座ってるほうが恥ずかしいくらい。
全員で輪になって踊るんだもの。意を決して踊ってみたら意外と楽しかった。

もちろん、L先生も(先生は何にでも気軽に参加する人です。2年前も踊ってました。
その時、私はひとり座っててひんしゅく買いまくりでしたけどね・・)
席に戻る時、L先生とすれちがったから(中国語)「快楽(楽しいね)」と言ったら(中国語)「うん、快楽(楽しい)」と。
でも、目が笑ってなかった。
で、まあ、食べては踊って、飲んでは踊って・・・としていたのですが、
いつの間にか、ちゃっかりカノトがL先生の隣に座ってるではないか!

なんでー??
その丸テーブルは先生がたのテーブルだろっ!
そうなんです。
カノトに日頃から甘い我が県のw代表が「いいから、座れ」かなんか言ってカノトに席をあけて座らせたのです。
そうなんです。そうに違いないんです!!
私にはそれくらいのこと聞こえなくたって分かるんです!

それにしても、なんでL先生はあんなに、にこやかなんだろう?
どうして楽しそうに会話が弾んでるんだろう?
さらに、カノトはL先生とツーショットで写真を撮り始めたではないか!

!!

私は無意識のうちに私はカメラを握り締め前に突進していた!
私のテーブルから、かなり離れていたのですが、体が勝手に動いていたのです。
私はL先生と同じテーブルのM先生に無意識のうちにカメラを持たせ、
無意識のまま「ここを押して!」と命令していました。
L先生の横に並んで首尾よくツーショットになったはいいが、鬼の形相で写ってたりしてね・・・(笑)

その後も、L先生とカノトのラブラブ状態をイヤというほど遠くから恨めしく見つめていたのでした・・・

なんなんだ?
どういう関係なんだよっ!?

どこをどうしたら、彼女のように親しくなれるのか私にはさっぱりわからん!

太極拳なんてもんじゃなく難しい。
私には一生マスターできないと思う・・・

もう、どうとでもなれ!状態の私は同じテーブルのフミコさんと太極拳談義に花を咲かせ、
私の太極拳アホアホぶりを聞かせて大いに笑かしたりしていた。
そうこうするうち、主催県のおば様がお酌に来てくれたりして、「tuziさん!」なんて声かけられたりして驚いたりして。
なんで、私の名前知ってるの?
だって、私の知らないおば様なんですけど・・・初対面・・・ですよね・・・状態の私。
聞けば、2年前の我が県の講習会に参加されたとのこと。
その時の表演を見てくださって(もちろん、団体での表演です)名前を覚えたとのこと。
それにしても、表演見て名前を覚えるって・・・
いずれにしても、嬉しくて感激してしまいました。
そして、おば様が言うには
「tuziさんは本部の講習にも出かけていらっしゃるのね♪
写真が載ってるのを見たのよ♪凄いわねえ、勉強なさってるのねえ♪」

えっ?

ちょ、ちょっと待ってくれ。
私、参加してないし・・・
私が止めようにも、おば様の話しはノンストップで進み、
「今日もねえ、tuziさんが端にいてくれたから、見れてよかったわあ♪
足なんかピッとあがっちゃってて♪」なんて言っている。

人違いですよね・・・?

もう、いいや・・・勉強熱心なtuziだってことにしておこう。
そんなこんなで、どこまで、喜んでいいのかさっぱり分からなくなったtuziの宴会の夜は更けていった・・・

最後にはL先生の歌まで聴けた。
L先生は太極拳だけじゃなく、踊りもうまくて、おまけに歌も上手だった・・・
マイ・ダーリン(言ってて虚しくなってきた・・・)は何をさせてもうまかった・・・

明日には、さらにエスカレートしたカノトの恐ろしい所を目にするtuziだった・・・
恐怖はこれからが本番だったのだ。
頼むから誰かカノトを止めてくれ・・・



午後9時00分
恐怖の宴会も終わって、温泉を楽しみ(私は温泉が大好き♪)
昨晩はうまく眠れなかったから「(さあ、寝るぞー)」とばかりに9時に床に入った。
でも、5人の相部屋。
おば様は「私は普段、1時頃にしか寝ないから、まだ早いわ」と、テレビを見始めた。
私とフミコさん、もうひとりの3人は、しっかり寝る体制に入っていた。

おば様の見始めた番組は、ゴッホ美術館の絵画特集だった。
インテリおば様なのね・・・
そこに話しを合わせたのが、カノトだった。
「私、アンジェリコの受胎告知が好きなんですう・・・」

ああ、それなら見たよ。
フィレンツエのサンマルコ美術館だよ。昔サヴォナローラがいた修道院だったんだぜ。
そこの壁画なんだけどさ、フラ・アンジェリコの受胎告知は2枚あるんだぜ!
おまえはどっちが好きなんだ?
階段上がってすぐのか?それとも第3僧房のか?

ようやく、私たち3人を気遣ってか、おば様は部屋の明かりを消してくれた。
ところが、私は日頃から寝つきが悪い。
案の定、眠れなかった。
それに隣の隣の部屋にはL先生がいる・・・
L先生も相部屋だった。w代表がうるさくて眠れないのでは・・・
余計なことばかり考えてい、尚更眠れなかった。


その頃二次会の真っ最中だった・・・
L先生はお酒を飲まないのに、この笑顔。



夜中の1時か2時頃だと思う。
カノトが突然話し始めた。
「それでしたら、伺った時に書類に記入していただければ結構です・・・」

えっ?こんな時間に電話?しかもそんな大声で?
声は明瞭そのもの。まったくよどみがない。
それは・・・
寝言だったのだ!

びっくり!カノトは寝言も凄かった!怖いよー、こんなにハッキリした寝言はじめて聞いた!
スゲー!

このハッキリクッキリ大声の寝言がこの後30分おきに繰り返された。
全部がちゃんと聞き取れる内容だった。
恐るべし、カノト!

そして私はこの晩、一睡もできなかった・・・
明日の講習はどうなってしまうのか・・・tuziは2日間寝てません。
勘弁してよ・・・(泣)



「諦」
5月25日(日)
午前6時30分
目はつむっているけど寝ていない私は、とりあえず寝てるふりして横になっていた。
そこへ、カノトの声が・・・
「あっ、朝練してるっ!」

「なにー!なんだってー?」
私は、もしやL先生が朝レンに?と思い、むっくと起き上がった。
見れば、全然違うメンバーだった・・・なーんだ、起きるんじゃなかった。
「tuziさん起きてたんじゃあないですか・・」

そうだよっ!あんたの寝言聞いてたから眠れなかったのさ!

朝食に向う。
睡眠不足を食事で補おう!
お腹いっぱい食べて戻ろうとしたら、浴衣姿のM先生とL先生が。

あっ。

こういうびっくりした時って、なぜかとっさに中国語がでてしまう。
(中国語)「早上好!睡好了マ?(おはようございます、眠れましたか?)」
(中国語)「睡好了(よく眠れた)」
えらく無愛想だった。
M先生をないがしろにしたから?
朝っぱらから、凹んだ。



午前8時30分
今日の練習は9時からだ。
もしかしたら、早く行っていれば見てくれる気があるのなら、L先生もやってくるかもしれない・・・
私は早めに部屋を出て、体育館に向った。
やはり、あれは調子よく返事しただけだったのだ・・・



午前9時00分
気持ちを切り替えて、練習に臨む。
今日だけの参加者も加わり、更に人数が増えた。モリヤさんと私の横にもひとりずつ立った。
剣を置いて、割り箸で動いたり、何も持たずに動いたりして最後の‘収勢’まで進んだ。


割り箸を手に練習


L先生の指導には無理がない。
動いていて体のどこにも負担がかからないし、痛めることもない。
スムーズに套路の動きが流れるように覚えることができる。
Lマジックである。不思議な魅力だ。

L先生は‘収勢’でも気を抜いてはいけない、と強調されていた。
指をダラーッとしたりしてはいけないと・・・

2度目の通しの時だったろうか。
L先生は、私のすぐ横の今日だけの参加者A子さんを直してあげていた。
「足の位置は斜めです。・・はい、そうです。・・手はもっと前に伸ばします・・・いえ、こうです・・・」
と、手を取って直してあげていた。

そして、その後、モリヤさんの横の今日だけの参加者B子さんへ。
「もっと、前まで刺して下さい」

その指導を何気に聞いていた(すぐ近くだから、聞こえていた)私は、
声も穏やかに、・・して下さい。・・です。・・そうです。口調の優しいL先生を見て、
「(ああ、筋のいい人には懇切丁寧に指導するんだなあ・・)」と、ボンヤリ考えていた。
それも、正面から手を添えて直してあげていた。

「はい、ではそのまま続けてー!」
‘収勢’

と、その時!

背後から、いきなり声が!

「膝伸ばして!(怒)」

「はい」

背後からでもこの口調は私に向けられているのだと、すぐ分かった。
だって、いつもの声のトーンだから・・・
私は反射的に膝を伸ばした!

「終わりでしょ!なんで曲げてるの!(怒)」

そう言って、先生は私を真似た。

「はい」

「収勢はもう終わりでしょ!(怒怒)」

「はい」

「曲げないでしょ!(怒怒怒)」

「はい」

「わかるでしょ!!(怒!)」

「・・・はい」

私は「はい」を気が遠くなるほど繰り返し、固まっていた。

L先生は歩きながら遠ざかりフェイドアウトしながらも、視線はこっちを睨み怒っていた。
私も固まりながら、視線は歩いて遠のいていく先生に向けて、か細い声で「・・・はい」を繰り返していた。

怖いよー・・・(泣)

膝は既に伸ばしているのに、こんなに延々叱られなきゃなんないなんて・・・
‘収勢’だよ。
立つだけだよ。

ついさっき、隣の人に指導した同一人物とは思えない口調。
隣から2歩も離れていないのに、この豹変ぶりは・・・
しかも、突然背後から・・・

怖いよー・・・(泣)

あー、なにか恨みでもかったのかしら・・・
考えてみたけど、これといって思い当たらないのよね・・・
でも、思えば2年前も私にはこういう口調だった。
あの時は、私だけじゃないと思っていたのだが、そうじゃなかったのだ。
このことに、2年経ってようやく気づいた私って・・・

L先生を「怖いよー・・・」と思っているのは、私だけなのだろうか?
誰もが「L先生は親切で熱心な先生」と口をそろえて言うだろう。
全員を集めて説明する時だって、達者な日本語でみんなを笑わせながら
和やかに、実に分かり易く説明するし、教え方だって申し分なく完璧だ。
大人数の中を行ったり来たりして、くまなく見て回り、ご自分が模範を示しながら進める・・・

そりゃ、私だって「L先生は親切で熱心な先生」だと思ってます。
どんなに怖くとも個人的に指導の声がかかることを嬉しいとも思ってます。


マイ・ダーリンの背に念波をおくるtuzi



午前10時30分
休憩。
私はかなり、凹んでグッタリしていた。

その間、バリバリ全開のカノトは携帯電話を取り出し、L先生とメールアドレスの交換だ!
カノトのこの行動は、度肝を抜く行動ではあるが、私はもう、何が起こっても不思議ではなくなっていた・・・
所詮私には一生理解できない。
そして、カノトに終始にこやかなL先生の態度も理解不可能になっていた。
講師が休憩時間にメールの交換だなんて、ちょっとかっこ悪い・・・
「携帯持ってきてないから」といえばすむことだ。わざわざカバンから取り出すことじゃないと私は思った。
なんか、ふたりの周りには人が集まって、楽しい談笑がおこっている。
きっと、普段のプライベートなL先生の様子が語られているのだろう。
私は遠く離れたところでグッタリしながらこの様子をぼんやり眺めていた。



午後12時00分
昼食。
カサ先生と「太極扇」の話しや「武式」が見てみたい、なんて話をしていた。
私は五大流派の中で「武式」だけまだ見た事がない。
今日は表演があるから、「武式」を披露してくれないかなあ・・・言ったら、
カサ先生は「L先生にささやいてみたら?」だって。
黙ってたけど・・・
聞いてくれる訳ないじゃん!
私がささやいても即行、却下だよ!
カノトがささやけば別だろうけど。



午後2時00分
講習は終了。
2年間待っていた講習だというのに、充実感に欠けていた。
L先生の表演は各派寄せ集めの「自選套路」だった。
そりゃあ、動きはいつもの如く完璧な美しさと強さが表現されてますが、
なんだか、簡単にあしらわれたって感じ。
カサ先生に「どうだった?」と聞かれたので、首をかしげて唸っていた。
「やっぱり、武式が見たかった?」
「はい!」


表演するL先生
あのう・・・ブルーはあんまり似合わないと思うんですけど・・・



午後3時00分
閉会式。
M先生はL先生と寝起きを共にし「この講習で一番得をしたのは僕だ」とあいさつされた。
確かにそれは羨ましい限りだ。
盛り上がった太腿の筋肉も見たんですって!
羨ましい限りだ。
L先生は毎日2、3時間の練習中、3分の2は基本功に当てているという。
残りが套路練習。

だからってさあ、M先生、教室でそれやるつもりじゃないでしょうね?
2時間のうち3分の2は基本功・・・
やめてよね・・・
それは各自、自主トレするものなのでは・・・?
それに、L先生のレベルと私たちは違うんだからさあ。あくまで、L先生の練習法なんだろうし。
まあ、私は現在M先生に習っているわけじゃないので直接関係ないけど・・・


流暢な日本語で最後のあいさつ
普通の青年の顔に戻って・・・



午後3時30分
帰り支度を始める。
着替えて出てきたら、L先生がひとりたたずんでいた。
最後のあいさつに、同部屋だったおば様が握手をされていた。
カノトの姿が見あたらない。L先生と私だけ・・・

GO!

私も最後のあいさつに近づいた。
カノトの姿が見えないので妙に安心していた。
(中国語)「辛苦了(お疲れ様でした)」
(中国語)「孫式見れなかったね。これからもっと勉強して練習と努力を続けるようにね」

私はL先生の言葉を聞きながらうなだれてしまった。
しばし、落ち込む。
私のように地方で太極拳を勉強する者にとって、こうして一流の先生に習える機会は滅多にあるものではない。
今後、L先生に習えるかどうかもわからない。
そんなことが、頭の中に浮かんでしまって、がっくり肩が落ちて、ため息まで出てしまった。

あっ、いけない、いけない。
ワープしてしまった私は気を取り直して、意を決し、息を吸い込んで顔を上げた。
「謝謝。下次・・・」
と言いかけたらこの後の言葉がL先生と、はもってしまった!
「・・・一定看・・・」
そして私が「在××!(我が県)」
L先生は頷いてくれた。
また、口先だけの安請負だろうか・・・

L先生の手は大きくてあったかだった・・・

最後のあいさつも済んだし、あとは元の生活に帰るだけ・・・
これから私はいったい何を励みに・・・

帰りの電車はw代表といっしょだが、まだまだ時間があった。
w代表はL先生と駅でお茶して帰ると言う。
私なんかは混ぜてもらえないから、どうしようかな?早いので帰ろうかな?と
あれこれ考えていたら、そこにカノトがこれまたグッドタイミングで現われて、
「私もいっしょしてよろしいですかあ?」とw代表にきいている。
w代表はもったいぶりながらも嬉しそうに、「ああ、いいよ♪」なんて言っちゃって!
私は心の中で思いっきり拳を握っていた

こんな時、「いっしょに行きたいなー」と思っても言わないのが私のキャラ。
かわいく「行きたーい♪」と口にするのがカノト。
同じことを思ってても結果は大きく違う

カノトの快進撃はメールの交換だけでは終わらなかった。
カノトの勢いはそんなことで終わるほど生易しいものではなかったのだ。
私の想像をはるかに超えてしまうほど・・・



「縁」
5月25日(日)
午後4時30分
駅まで、主催県の方に車で送ってもらった。
L先生とw代表が乗った車にも乗れたんだけど、やめた。w代表がいるんじゃ気疲れする。
私はモリヤさんの車で送ってもらった。車内は私とモリヤさんだけだった。
モリヤさんとは以前から面識があったし、今回の講習会の主催役員でもあるので
「L先生を呼んでくださって感謝してます」
なんてことや、L先生になったいきさつなどうかがった。
直接、L先生を指名することはできない仕組みが少し見えた。

もう、会えないかも。
それを分かってての安請負かよっ!?
なんだか、先の見えないトンネルに入ってしまった気分だった。

私たちも流れに乗ってお茶を一緒することになった。
そこまではいいのだが、カノトの姿がない。会場を先に出たはずなのに・・・
私たちが着いたらアラシ君(主催県役員)がカノトに電話することになってるんだと。
呼ぶの?

カノトは華麗に現われた!
L先生の顔が一瞬にして輝いた!私はその瞬間を見逃さなかった。
そして、w代表は「おお、よく来たなー」とばかりにL先生の向かいに座らせようとする。
そのカノトを見つめるL先生のにこやかな笑顔。
私には絶対に見せない笑顔。

なぜなんだろう?
なぜ、私には無愛想なんだろう?
嫌われてる?

そして、最後のメイン・イベント
名刺交換!

アラシ君が出した名刺がきっかけで、カノトまでが「わたくし、こういう者でございます♪」と名刺交換に便乗。
絶対、タイミングを外さないカノト。
私は出そうか、出すまいか考えてるうちに出しそびれて後悔するタイプ。
この時もそうだ。
私だって、名刺くらい持ち歩いている。
ただ、この場で出すべきかどうか考えあぐねているだけ・・・そして時間は過ぎていく・・・

嬉しそうに受け取るL先生。この時もL先生は笑顔だった。
そしてL先生からお返しの名刺がカノトにも手渡された。
私の剣がL先生の左脇腹に思いっきり突き刺さった!



午後5時00分
L先生は剣が腹部に刺さったまま帰っていった。
カノトはメールアドレスと名刺の戦利品を手にした。

カノトはすごい!誰にもまねできない。私は心からそう思う。
帰りの電車の中、w代表の向いに私が座り、「私、先生の隣♪」とカノトはすりすりしてきた。
私はこの際なので、カノトのあつかましさ・・あっ、いやいや積極的行動の秘訣を聞いてみることにした。
「L先生のメールアドレスまできいてしまうなんてスゴイなー」
tuziは聞きかたまでベタだ・・

「だって前に、L先生メール始めるって言ってたから。写真送りますって言ったら教えてくれたんです♪」
ほほう・・・L先生から教えるって言ったわけだ。

「いいなあ、L先生とメールできて」
「tuziさんにも教えていいか聞いてみますか?」
「・・・えっ!(絶対ダメだ、教えるなって言われるに決まってる)・・・うん、聞いてみて。すぐ聞いてみて!」

カノトはメールを打ち始めた。
「でも、L先生、私の名前知らないと思うよ」
「そんなことないですよ。みんな名札つけてたじゃないですか」
覚えてないと思うけどなあ・・・

「カノトさんって、中国人の先生みんなと親しくなってしまうわよね。
みんなに好かれるし。私なんか話しかけるところまでいかないもの」
「tuziさんだってL先生と写真撮ったじゃないですか」

「だからあ、それはあなたが先に行ったから、私も行けたのよ!
私は、気持ちだけ行っちゃってて、思ってても足が動かないから・・・
その点、あなたは違う。それはプラスの積極性ね。それに、みんなにカノトさんは好かれてるから。」
「私はバカな質問ばっかりしてるから、かわいそうがられてるんですよ。
tuziさんは上手だから、先生に「ここにいて下さい」って言われて場所とかも変えられてるし」

そんな、丁寧に言われたことなんかない!断じてない!
「あんたは、ここっ!(命令)」っていうのはあったかもしれないけど・・・

カノトはL先生のことだけじゃなく、他の中国人先生の家族構成まで知り尽くしていた。
だれそれ先生のお姉さんの勤め先まで・・・

さらにカノトはこれからも太極拳を続けていくことをw代表に話し、
「先生には150歳まで生きててもらわないと」と歯の浮くようなことを真顔で言っていた。
それを聞いたw代表は本気で「かわいい、かわいい」しそうだった・・・

私は安っぽい芝居でも見てるかのような錯覚に陥ってしまったのだった・・・(めまい)
この人たちの中でこのまま太極拳をやっていけるのか、とても自信がない。
カノトはw代表の全面バックアップを受け、
L先生に近づいてもお咎めどころか却ってw代表に喜ばれているように私には見える・・・
ところが、私はその反対で、なにをしてもw代表に睨まれ、退かされる、覆させられる・・・
代表に疎外されるというのは致命傷ではなかろうか?

でも、私はそんなことで太極拳を辞めたりはしないし、嫌いになったりもしない。
ただ、この団体で続けるかどうかが疑問なだけ。
太極拳は私にとってここだけの狭ーい世界にとどまらない。

私は、普段口数が少なく、黙っていることが多い。
思っていることの半分も話さないし、ましてや行動はその半分にも満たない。
何を言われても黙って耐えているが、傷ついていないわけでもない。
でも、それが言葉に現われることは滅多にない。
親しくない人には尚更だ。
行動を起こす時は黙って起こす。
だから、周りが驚く。
「えっ?tuziさん、突然・・・(絶句)」
でも、私本人にとっては突然でもなんでもない。
何年も考えていたことだったりするのだから・・・
私はそういう人なんです。

カノトは違う。
場もわきまえず・・あっ、いやw代表の後押しで行動し、あつかましく・・あっ、いや積極的に突進し、話しかけ、
首尾よく・・あっ、いや幸運にもすべてを手に入れる・・・
カノトさん本人にとって、それは努力の賜物なのかもしれない。
私が考えているような女性ではないのかもしれない。
だが、彼女には彼女の行動を支えるw代表がいる。
私にはそのようなバックもいないし、そこまでして手に入れたいものなどない。
簡単に手にしたものは、すぐに手からすり抜けていくものだから。(と思いたい)

そして、ついにL先生からの返信メールはこなかった。tuziは「お呼びでない」ということだ・・・
これも運命だ。縁だ。



午後9時00分
L先生は祝賀のあいさつで、「できるだけ日本にいて・・・」とおっしゃっていた。
「できるだけ」というのが、どれだけの時間をさすのか分からないが、
今回、2年前から更にパワー・アップしたL先生を目にし、
一日も早く次の機会をつくっていただいて、指導を受けたいと心から願うtuziなのでした。

2日間寝ていない私はこの夜11時間熟睡した・・・

翌朝、背筋と股関節の筋肉痛がここちよかった。

「またL先生に会いたいなあ・・・」


(おわり)




<教訓>
本質を見抜く目を養え!